痴漢プレイの現実と虚構 その2
全然別のお客さんで、毎回女子高生の格好をさせる人がいた。
彼のプレイもいつか書きたいくらいかなり特殊だった。
彼はいつも帰り際に
「いつもありがとう。頭がすっきりした。これで後半年は犯罪者にならなくてすむよ」
といって帰っていく。毎回割と高い金額を払っていたし普段はまともな仕事をしているのだろう。人間には色んな顔があって社会では社会の顔で生きている。彼はときたま特殊性癖をどうしても満たしたくなって頭がもやもやして仕事もうまくいかなくなってしまうらしい。ギリギリのバランスで生きているのだ。
彼の性癖を実現するプレイはなかなか馬鹿馬鹿しいけど彼にとっては生きていく為に大切な儀式だったのかもしれないな、と思う。そしてきっとそういう人は沢山いるのだ。
痴漢プレイの話に戻ろう。
私は制服を着てカバンを持って歌舞伎町のラブホテルの壁と向かい合っていた。
ここは電車で私は中学生。通学途中だ。
田舎育ちで中学校の時は寮に入っていたから実際電車で通学する感覚とか痴漢される感覚は全然わからないけど向こうも本当に痴漢した事はおそらくないだろうから大丈夫だろう。お互いの最大公約数で合わせていこう。
台本はあるとはいえ、痴漢された事はないので緊張する。
「しばらくしたら近づいて痴漢するからね」とお客さんが言って風呂場の方に消えてから何分か経った。心の準備でもしてるのだろうか。
何か声が聞こえる。
「ガタンゴトン〜 ガタンゴトン
ガタンゴトン ガタンゴトン〜」
電車の音を彼は口で再現しながら近づいて来た。
ちょっと予想外すぎて一瞬頭がゼロになった。
リアリティやディティールを求めるのはわかる。でも口で電車の走行音を再現するのは斜め上すぎて予測できなかった。
ツッコみ所が多すぎて死にそうだ。
ぎりぎり笑わずに耐えた。どんな性癖でも笑わずに受け止めるつもりだし、今までも笑った事は無い。きっと彼なりに真剣に考えた末の再現なのかもしれない、いつもはスピーカーでで走行音を流しているのかもしれない。
私がそれを笑ってはいけない。そんなことをもやもや考えていた。
「次は 赤羽〜 赤羽〜」
埼京線だった。
設定は早めに話しておいてほしい。急にはじまるとツッコミを入れたくなってしまう。だから最初の台本が肝心なのだ。
なぜ赤羽がチョイスされたのだろうか。私はお尻を撫でられながらそんな事ばかり考えていた。(痴漢プレイは既に始まっているがそれ以降は特段面白い事も無いので割愛する)赤羽の事が気になって集中できない。彼はいつも埼京線に乗っているのだろうか。それとも彼の中で痴漢=埼京線なのだろうか。そういえば埼京線は痴漢が多いって聞いたことがあるな……
ツッコミたい気持ちを抑えてぐるぐる考えているうちに痴漢プレイは完遂された。中学生のしおりちゃんは痴漢されてむずむず興奮して初めての性の悦びに目覚めた。
とは書いてみるものの、思い返してみると痴漢プレイの痴漢部分についての記憶は全然無い事に気づく。何年も前の事だ、なんせディティールと電車の音の印象が強すぎる。
そもそもイメージプレイのプレイの部分はそんなにみんな変わらないのかもしれない。プレイに付随するイメージの部分は本当に人によって千差万別で、ごくまれに一生覚えているような設定を持って来てくれる人がいる。
その設定にはその人の人生というかその人だけのストーリーがあって、私はそれを聞くのが大好きだ。元々長くSMクラブで働いていたのはそういう理由も大きかったのだと思う。
ちなみに痴漢プレイの後、もうひとつやってみたいプレイがある、といって彼が提示したのは「中学生のストレッチのコーチがセクハラをする」というものだった。
私は死ぬほど身体が固いので結構しんどかった記憶がある。
その後1回本指名で来てくれたが、その後は会う事は無かった。
今は何をしているだろうか、電車の音はYouTubeを使っているかもしれない。リアルなつり革を手に入れているかも。
痴漢プレイには飽きて何か違うフフェチに目覚めてるかもしれない。(だとしたらちょっと寂しい)
私と彼が過ごした時間はその2回、合計4時間か5時間だけど、私は一生忘れないと思う。彼の頭の中にも少しだけ私がいてくれたら嬉しい。
【おわり】